だ、俺らのことは後廻しでいいから、この背中に背負《しょ》っている人を助けるようにしてもれえてえのだ、君ちゃん頼むぜ」
「そりゃ大変。なんにしても、まあ早くお入り」
米友は、ぬっとその潜《くぐ》り木戸へ頭を突込みました。お君が雪洞《ぼんぼり》を差しつけて、入って来た米友を見ると、自分の身体よりも大きな男を一人背負って、手には棒を杖について、
「君ちゃん、久しぶりだな」
「友さん、よく尋ねて来てくれたねえ」
お君にとって米友が不意に訪ねて来てくれたことは、兄弟が訪ねて来たより以上の嬉しさでもあり頼もしさでもあります。米友をもてなす時のそわそわとした素振《そぶり》を見れば、お君はほんとうに子供らしくなってしまうのでありました。
お君は打掛などは大急ぎで脱いでしまいました。それでも髪だけは片はずしであることが不釣合いだともなんとも気がつかないほどに、米友をもてなすことに一心になってしまいました。
お君が米友を案内して来たのは、自分の部屋とは離れた女中部屋の広い明間《あきま》であります。
米友の背負って来た連れの大病人は大切《だいじ》に二人で荷《にな》って、蒲団《ふとん》の上に寝かせて
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