、お女中がお一人では途中が案じられますから、こうしてお送り申し上げようと言うんでございます」
折助はこう言いました。
「わたしは、ほかに連れの者がある、それを待っているの故、お前方のお世話は要《い》らぬ」
お銀様は、やはり叱るような言いぶりであります。折助どもは、お銀様が何か言い出すのを待っていたと言わぬばかりでしたから、
「そんなことをおっしゃらなくたっていいじゃあございませんか」
「無礼なことをすると許しませぬ」
お銀様は懐中へ手を入れました。その時に一人の折助が、横の方からお銀様の被っていた頭巾を引張りました。眼ばかり見えていたお銀様の面《かお》の口もとから額へかけて、斜めにその呪われた怖ろしい面が見えました。
「はははは」
と折助どもは声高く笑いました。歯をキリキリと噛み鳴らしたお銀様は、キラリ光るものを手に持っていました。
「やあ、危ねえ、刃物を持っている」
前後から五六人の折助が寄ってたかって、お銀様の持っていた懐剣を奪い取ろうとして、怪我をしたものもありました。
「面倒くさいから引担《ひっかつ》いでしまえ」
彼等は寄ってたかって無礼な振舞に及ぼうとする時に、妙詮
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