寺《みょうせんじ》の角から突然《いきなり》飛び出して来た強そうな男。
「この野郎ども、飛んでもねえことをしやがる」
 折助どもをポカポカと殴り飛ばして、その一人を濠の中へ蹴込みました。
「やあ、役割!」
と言って、折助はたあいもなく逃げてしまいました。この場へ来合せた強そうな男は、役割の市五郎であります。

「お嬢様、もう御安心なさいまし、ほんとにあいつらあ、悪い奴だ、お嬢様とも知らずに碌《ろく》でもねえことをしやがる」
 市五郎がこんなことを言って慰めているところは市五郎の宅であります。
「市五郎どのとやら、お前が来てくれなければ、わたしはドノような目に会ったことやら。よいところへお前が来てくれたから、それで悪者がみんな逃げてしまいました」
 お銀様は泣いていました。
「ナニ、たかの知れた折助どもでございますが、打捨《うっちゃ》っておくと癖になりますから、少々大人げねえと思いましたけれど、二つ三つ食《くら》わしてやりました。御心配なさいますな、これからお屋敷まで送らせて差上げますから」
「市五郎どのとやら、わたしには連れの者があってそれを待っていたところ、その連れの者に沙汰をして貰い
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