飲ませました。幸内の口が、もうたくさんだという表情をして米友の口から離れるまで、水を飲ませてやりました。
「ちっとは元気がついたかい。いくらか元気がついたら、お前の所番地を言ってみねえな、そうすればそこまで俺《おい》らが送ってやるよ」
しかしながら、幸内はその返事をしたくて咽喉をビクビクと動かすのだけれども、ついに言葉を聞き取らせることができません。
「まあ、いいや、ムクが知ってるだろう、ムクがお前の家を知っているだろうから」
と言って、米友は幸内を抱き直して、またも自分の背中へ廻そうとしました。米友が幸内を負《おぶ》って来た帯は、神社の鰐口《わにぐち》の綱をお借り申して来たものであります。米友はその綱を探って背負い直そうとした時に、
「あッ、冷たくなっちまったぞッ、冷たくなっちまったぞッ」
と叫びました。そうして幸内の手首から、あわただしく胸元へ手をやって、
「いけねえいけねえ、咽喉へ痰《たん》が絡《から》まってらあ、さあいけねえ」
米友は狼狽《うろた》えました。
「おいおい、冗談《じょうだん》じゃねえ、死んじまっちゃいけねえよ、せっかくムクと二人で助け出して来たんだ、いま死んじ
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