がら、お銀様の方へとかたまって来るのであります。
 お銀様は腹を立てました。無礼にも無作法にも限りのないやつらだと、口惜しくてたまりませんでした。それだから黙って彼等を振り払って行こうとすると、その前へ廻り、
「どうか、御勘弁をなすっておくんなさいまし」
 それを振り払って、また進んで行くと、
「野郎が、あんなに謝罪《あやま》るんだから、どうか御勘弁をして上げておくんなさいまし」
 お銀様は心の弱い女ではありません。どちらかと言えば気丈な女であります。それだからこれらの無作法な折助に一言も口を利くことをいやがりました。それを振り払って避けようとしました。
 折助どもはそれを前後から取捲くようにして追いかけるのは、どうも何か計画あってすることとしか思われません。
「これほど謝罪《あやま》っても、何ともお許しが出ねえのは、よくよく見倒された野郎だ」
と折助の一人が言いました。
「ナーニ、お女中さんが縹緻《きりょう》がよくっていらっしゃるから、それで気取っておいでなさるのよ、下郎どもとは口を利くも汚《けが》れと思っておいでなさるんだ」
と、また一人の折助が言いました。
「違えねえ、折助なんぞ
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