でも、いつも怒気を含んでいるように見えるのであります。
「へへへへへ、これはこれは」
と言って折助は急に、ふざけた声色《こわいろ》を使って、頭巾で隠してあるお銀様の顔をワザと覗《のぞ》き込むようにして、
「お女中のお方でいらっしゃる、それとは知らず飛んだ御無礼」
 なんぞと言って、またまたワザとらしい声色と身ぶりでお辞儀をしました。
 お銀様は、それを見ないでぷいと向き直って歩き出すと、
「兄弟《きょうでえ》、どうしたんだい」
と言ってほかの折助が寄って来ました。
「いや、このお女中に飛んだ失礼をしてしまったんだ、ツイ足がよろめいたために、このお女中に突き当ってしまったから、今、謝罪《あやま》っているところなんだ、兄弟、なんとかとりなしてくんねえ」
と、前の折助がこんなことを言いました。
「そいつは悪いことをした。まあ、どちらのお女中さんか知らねえが、この野郎は、平常《ふだん》から軽佻《かるはずみ》な野郎でございますから、ナニ、別に悪い心があってするわけじゃございません、どうぞ御勘弁してやっておくんなさいまし」
 ほかの折助が、これもまたワザとらしい身ぶりと声色で、揉手《もみで》をしな
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