者があります。それは例の折助連《おりすけれん》であります。
自分で無理にすすめて廓《くるわ》の中へやっておきながら、お銀様は焦《じ》れて焦れてたまらなくなっていました。自分を平気でこんなに待たせておくお君を呪《のろ》うような心持になって、城の方ばかり睨んでいましたから、この五六人の折助連が私語《ささや》きながらこっちへ近づいて来ることも気がつきません。
そうしていると、折助の一人が、ふらふらと歩いて来て、お銀様に突き当るようにしてすれ違って、
「危ねえ、危ねえ」
と言いましたから、お銀様も気がつくとその折助は酔っていて、足許も定まらないようであります。お銀様は驚いてそれを避《よ》けました。それを避けるとその次に、また一人の折助が通りかかって、同じようにお銀様に突き当ろうとしました。お銀様は、また驚いてそれを避けると、第三番目の折助が、とうとうお銀様にぶっつかってしまいました。お銀様は危なく足を踏み締めますと、
「やい、気をつけやがれ」
とその折助が言いました。わざとする乱暴さに、お銀様は口惜しがって折助どもを睨《にら》めて立っていました。お銀様の眼つきは、ことさらに睨《にら》めない
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