を横の方へと鼻先を持っていくのであります。
「ムクやい、どこへ行くんだ」
米友は腰なる小田原提灯を外《はず》して、ムクの行く先を照して見ました。もちろん、その通りの靄でありましたから、提灯の光も、足許だけしか利きませんでした。利かないけれども、米友はその提灯を突き出しながら、地を嗅ぎ嗅ぎ横へ外《そ》れて行くムク犬のあとを監視するように跟《つ》いて行きました。これはどっちも前のように勇み足ではありません。
「ムクやい、手前、道を間違えやしねえか、これ見ねえ、ここはどっちも松並木で、それ並木の外は藪《やぶ》で、その向うは畑になってるようだぜ、いいのかい、こんなところに君ちゃんがいるのかい、道を間違えちゃあいけねえぜ」
米友は、小田原提灯の光の許す限り、前後左右を見廻しました。それにも拘らずムクは、やはり地を嗅ぎながら、その松並木の横道を入って行くことを止めないから、米友もぜひなくそのあとを跟いて行きました。
暫くすると、一つの祠《ほこら》の前へと米友は導かれて行きました。その祠は荒れ果てた小さなものであります。社殿の前までムク犬に導かれて来た時に、米友は小田原提灯を差し上げて、
「こ
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