からそれで飯を食っていたんだ」
 水車のように廻した棒の七三のあたりへ、カッシと立ったのは刀の小柄《こづか》であります。それを受けとめるべく米友は、前のような惨憺《さんたん》たる苦心に及びませんでした。南禅寺の楼門でする五右衛門の手裏剣を柄杓《ひしゃく》で受けた久吉《ひさよし》気取りに、棒に食い付いた小柄を抜こうともせず、再び身を屈めて小石を拾いました。拾い取るとヒューと手の内から飛びました。手の内から飛ぶと、矢継早《やつぎばや》にまた拾いました。拾っては投げ、拾っては投げる米友の礫、それは上中下の三段から、槍を遣《つか》う如く隙間《すきま》もなく飛ぶのでありました。
 礫《つぶて》は隙間なく飛んだけれども、やはりその手答えはなくている途端に、
「破牢! 破牢!」
 この声が闇を圧して物凄く響き渡ります。
 それを聞くと米友は、礫を打っていた手を少しく控えて耳を傾ける。このとき早く、
「あっ!」
と言って米友は、また後飛びに五間ほど、今度は腰を立て直す隙《ひま》がなくて、仰向けに大地へ倒れてしまいました。仰向けに倒れたけれど米友は、倒れながらその槍を構えることを忘れませんでした。そして
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