よ。いったい、俺らの腕を試すつもりで斬りかけたのか、またホンとに俺らを斬るつもりで斬りかけたのか、そこんところがどうも解《げ》せねえやい、何とか挨拶をしろやい」
米友はこう言いながら、槍を左の手に持ち直して身を屈《かが》ませました。もう先方が確かに斬ってかかる気遣いがないから、それで形をすっかり崩してしまって、そうして右の手を伸べて往来の地面を掻きさがしました。ちょうど手頃の石があったのを拾い取って、腰をのばしました。
「それ!」
ヒューと風を切ってその礫《つぶて》が米友の手から暗夜の宙に飛びました。投げたものを受け留めることを商売にしていた米友は、また同時に投げることも巧みでありました。暗夜の宙に飛ぶ礫は聖人もまたこれを避けることができないはずであったけれど、幸いにして米友の投げた礫の的《まと》には、聖人も凡夫もいなかったと見えて、向う側の古池かなにかに飛んで行ってパッと水音を立てただけです。
礫は空《むな》しく飛んだけれども、
「合点だ!」
米友はけたたましく叫びました。叫ぶと共にその棒を一振りして水車のように廻し、
「危ねえものだが、その方はお手の物よ、餓鬼《がき》の時分
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