もありません。
「おかしな奴だな、斬りたけりゃ斬られてやるから出て来いよ、憚《はばか》りながら宇治山田の米友だ、斬って二ツになったら大《でか》い方をくれてやらあ」
そろそろ米友の啖呵《たんか》が始まりそうな形勢です。
「うむ、何とか吐《ぬか》せやい、俺《おい》らの方から出て行ってやりてえのだが、理詰《りづめ》の槍になっているからそうはいかねえのだ、ここは手前《てめえ》の方から出て来るところだ、盲目《めくら》なら仕方がねえが、盲目でなかったら出て来いやい」
と米友は啖呵を切りました。盲目なら仕方がないが、盲目でなかったら出て来いと米友が言ったのは、故意に出たのではありません。しかしながら相手は決して出て来ませんでした。自然、米友は力抜けがしました。
「どうもおかしな奴だな、今、ああして俺らが後ろへ飛んだ時に、手前がもう一太刀追っかけて来ると、実は俺らも危《あぶ》なかったんだ。ナニ、身体《からだ》を斬られるまでのことはねえが、槍は二つに斬られていたかも知れねえのだ。俺らにとっちゃあ身体を斬られるより、槍を斬られるのが恥かしいくれえのものなんだ。それを手前が追っかけずにいるのが気が知れねえ
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