奥の形《かた》が、立ちはだかって棒を構えたところ、そのままにおのずと備わっているのでありました。こうして見ると、運慶の刻《きざ》んだ十二神将の形をそのままであります。
 不思議なのはそれのみではありません。米友が何故に遽《にわ》かに真剣になって槍を構えたか、米友自身もそれは知ることができませんでした。ことにその通りの五里霧中にあって、鼻の先に現わるるものさえわからない時に、そこに何者かがあって米友を驚かせたものとすれば、それも不思議ではありませんか。
 ただ米友の槍を構えたその形だけを見ていれば、例の運慶の刻んだ十二神将のような形が、さまざまに変化するのを認めます。十二神将が十二神将にとどまらず、二十八部衆にまで変化するのを認めます。
 槍を挙げて、あ、と言って散指《さんし》の形をして見せました。やや遠く離れて槍を抱えては摩醯首羅《まけいしゅら》の形をして見せました。またそろそろと懸《かかり》の槍を入れたその眼は、難陀竜王《なんだりゅうおう》の眼のように光ります。「エエ」と言って飛び上る時は、雷神が下界を驚かすような形をして見せます。して見せるつもりではない、米友においては、実に容易な
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