とうとうみんな取逃がしてしまったということであります。
 多分逃げた先は長禅寺山の方に違いなかろうというので、その方へ追手が向いました。しかし廓《くるわ》の内、町の中とても油断がならないというので、その方へも追手が廻りました。
 お組屋敷の人たちは総出でその追捕方《ついほかた》に向っているために、家庭においては出陣の留守を預かるような心持で、眠るものとては一人もありません。
 少年たちも父兄のあとを追うて出かけようとする者もあったけれど、それは差留められて、その代りに附近の警戒をつとめることになりました。
 逃げた先はたいてい山の方だろうとは誰も想像するところでありましたが、この通りの闇のことですから、たとえ御城内へ逃げ込んだところでその姿を認めることはできません。たとえまた廓内の武家屋敷の方へ走ったにしろ、または市中へ走ったにしろ、やはり人影を見て追跡するというわけにはゆきません。右往左往に人は飛んだけれど、たまたま行会えばこの少年たちのようなのや、かの子供を背負うたきちがいのようなのや、そうでなければ御同役の鉢合せのようで更に手ごたえがありません。

「いったい、こりゃ何というもん
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