こうして無事に、それぞれの家へ帰るには帰ったけれども、帰って見ると家の方の騒ぎはまた一層であります。
 彼等の父兄というのは、牢屋に関係を持ったお組屋敷の者が多かったから、帰って聞くとその騒ぎは容易なものではありません。
 破牢は一番二番の室で、逃げ出したものは一番室で二人、二番室で八人、都合十人ということです。その計画はズット前から企《たくら》まれていて、両室共に牢の格子が鋭利なる鋸《のこぎり》の類で挽《ひ》き切られていたのを、飯粒で塗りつぶして隠しておいたということ。そうしておいて今夜のような靄の深い晩を待っていたらしいということ。その首謀者は予《かね》て東北の方からこの甲州へ入り込んで、甲州の地勢を探っていたために囚《とら》われた二人の怪しい浪士であって、それに力を添えて、刃物を供給したりなんぞしたのは、近ごろ入った贋金使いの男であるということ。幸いに牢番が発見した時分には、一の構内から外まわりの高塀を乗り越えようとして、まだその辺にうろついていたということ。不幸にして彼等の手が利いていて、人数の気の揃い方が上手であり、捕方の方が狼狽《あわ》てて、それにこの通りの靄であったから、
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