りがけに、猛然たる犬の吠え声に驚かされたのは、牢内にこの騒ぎが起ったのと前後しての時であります。
暫らくして町々を縦横無尽に人が走りました。彼等がいま帰って行こうとする方向から夥《おびただ》しき人が走って来て、ただでさえ霧中に捲かれている彼等をひきつつんでしまいました。
「ど、どうしたのだ、何事だ」
「破牢、破牢、破牢」
少年たちは丸くなって、そうして自分たちを取囲んだ慌《あわただ》しい人々に詰問の矢を放ちながら、おのおのその帯刀へ手をかけました。その理由はすぐ判明し、嫌疑はたちどころに晴れてしまいました。
取囲んだのはお組番や牢屋同心。彼等を取囲んで仔細に検分したのは、もしやと破牢の罪人を取調べのため。
そこで少年たちは、今夜という今夜は、いよいよ容易ならぬ晩であることを知りました。これは片時も早く家路に帰った方が無事だとの考えを起しました。しかしながら、遠くもあらぬお代官陣屋の方まで帰るには、これから、また幾度も改められ調べられることであろうと聞かされて、飛んだ迷惑なことだと、一同は苦笑いをしながら、またも例の靄《もや》の中を泳ぐようにしてその場を歩き出しました。
彼等は
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