宇津木君を助けるがいい、あとは我々が引受ける」
「それではひとつそういうことにお願い申します」
弥兵衛と呼ばれた男の駈け出すのを認めた非人が、
「やい、貴様は贋金使いの野郎だな、逃すこっちゃあねえ」
前後から組みついて来たのを、
「邪魔しやがるな」
贋金使いは二人を投げ飛ばしました。
「南条様、兵馬様を私にお渡しなさいまし、私の方が身軽でございますから、さあお出しなさいまし」
贋金使いは絡《から》みつく奴を蹴飛ばして、奪い取るように兵馬の身体を南条という武士の手から受取って、一本背負《いっぽんじょ》いに背中へ引っかけて、それと同時に片手を懐ろへ入れるやヒューと塀に向って投げたのは一筋の細引であります。その細引が弓の弦《つる》のように張っているのを伝わって矢のように早く、見上げるような高塀を上って行ったその身の軽いこと、業《わざ》の早いこと。
それを見届けてホッと息を吐《つ》いた南条という壮士は、多勢の中へ躍り込んで、非人の持っていた六尺棒を奪い取り、
「五十嵐!」
と一声叫ぶと、
「おうー!」
ほど遠からぬところで勇ましい返事。
徽典館《きてんかん》の少年たちが家路へ帰
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