ります。それから書棚には多くの書物があります。その書物には洋式の書物が特にめだっているのみならず、書棚の隅や、本箱の上、また別に棚を作って、見慣れないさまざまの武器の実物と模型とが、無数に陳列されてあります。
さまざまの武器といううちにも、ことに鉄砲が多く、ことに小銃にはいくつかの実物があり、大砲は模型として順序よく並べられてありました。
旧来の屋敷を、こんなに能登守が好みで建築をし直したものだと、お君はそのくらいのことはわかりますけれども、そのほかのことは、めまぐるしいほどで、なんと言ってよいかわかりません。
その卓子《テーブル》の近くの椅子の上へ腰をかけてよいのだか、また絨氈の上へ坐らねば失礼であるのだか、それさえお君にはわかりませんで、案内のあとに隠れてただポーッとして立ち竦《すく》んでしまったようです。能登守はその時、片隅の椅子に腰かけて卓子に向っていました。
黒羅紗《くろらしゃ》の筒袖の陣羽織を着て野袴を穿《は》いていました。門番の足軽が言った通り、今まで調練の指図《さしず》をしていたのが、それが済んでからここへ来て、書物を開いて何か書いているのでありましょう。その書
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