なところにあることがわかります。全く別なところというのは、つまりこの屋敷へ夜這に来たものなのでありましょう。毎晩のように夜這を目的に来てみたけれども、犬がいるために近寄れないのを、今夜は犬がいなかったために、屋敷の中へ忍び込むことにおいてある程度まで成功したものらしくあります。ところがその成功の途中で、また犬に追っ飛ばされたものと見なければなりません。
「ちょっ」
 金助は舌打ちをして多少いまいましがったけれども、
「それでも何が仕合せになるか知れねえ、捨てる神があれば拾う神もあるもので、このおれに飛んだ拾い物を授けて下すったというのは、あの駒井能登守が牢破りを引張り込んで知らん面でかくまった一件を、すっかり見届けてしまったんだ、こいつをひとつ神尾様あたりへ売り込んでみろ、安い代物《しろもの》じゃあねえ」
 こう言って金助は、前の嘲笑《あざわらい》と変ったホクホク笑いをしました。



底本:「大菩薩峠4」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年1月24日第1刷発行
底本の親本:「大菩薩峠 二」筑摩書房
   1976(昭和51)年6月20日初版発行
※「躑躅ケ崎」「天子ケ岳」「駒ケ岳」の「ケ」を小書きしない扱いは、底本通りにしました。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2002年9月21日作成
2003年6月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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