入[#二]蓬瀛[#一]《きろほうえいにいる》
[#ここで字下げ終わり]
「君ちゃん」
お銀様はお君を呼ぶのに君ちゃんと言ったり、お君と言ったり、またお君さんと言ったり、いろいろであります。
「はい」
「この文句がわかって?」
「いいえ」
「これだけでは、わたしにもよくわからないから、この下に仮名で書いてあるのを読んで見ましょう、|望用何愁[#レ]晩《ぼうようなんぞおそきをうれへん》という文章の下には『のぞみ事のかなふ事のおそきをうれへず、こころながくじせつをまつべしとなり』と書いてあります」
「はい」
「それから|求[#レ]名漸得[#レ]寧《なをもとめてやうやくやすきをう》という文章の下には『やうやくとはしだいにといふ事也、ほまれのなをもとめ、しだいしだいに名がたかうなり、心安くおもふやうになるべしとなり』と書いてあります」
「まあ、しだいしだいに……」
お君はなんだか充分に呑込めないような面をしました。
「その次に、|雲梯終有[#レ]望《うんていつひにのぞみあり》とは、大きなのぞみごとも、すでにそのたよりを得たということそうな、|帰路入[#二]蓬瀛[#一]《きろほうえいにいる》と
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