水屋のところに立って待っていた頭巾を取らない方の娘――いちいち頭巾を取らない方の娘とことわらなくても、それはお銀様と言ってしまった方がよいのです。お君の手に持っていたお御籤の紙がお銀様の手に渡されると、お銀様は受取って読みました。お銀様は紫の女頭巾はほとんど眼ばかりしか出さないように深々と被《かぶ》っていました。その眼をじっとお銀様がお御籤の紙上に注《そそ》いで黙読しているのを、お君は傍から覗いていました。お君にはその文字は読むことができないのであります。
「お嬢様、お御籤の表《おもて》は、吉でございますか、凶でございますか」
「この通り八十五番の大吉と出ていますわいな」
「大吉、それは結構でございます、この八幡様のお御籤が大吉と出ますようならば、もう占めたものでございますね」
「まあ、お聞き、大吉は凶に帰るということもあるから、一通り読んでみなくては」
お銀様は小さい声で読みました。
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|望用何愁[#レ]晩《ぼうようなんぞおそきをうれへん》
|求[#レ]名漸得[#レ]寧《なをもとめてやうやくやすきをう》
|雲梯終有[#レ]望《うんていつひにのぞみあり》
|帰路
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