さいせん》を紙に包んで、お賽銭箱の中へ投げ込みました。
「君ちゃん」
頭巾を取らない方の娘が呼びますと、
「はい」
お君はやはり恭しく返事をして、頭巾を取らない娘の方へ寄って来ました。
「わたしはここに待っているから、お前だけあちらへ行ってお御籤《みくじ》をいただいて来ておくれ」
頭巾を取らない娘が言いました。
「承知しました、ではお嬢様、暫らくこれにお待ち下さいませ」
「あの、お君や、もし年を聞いたら十九で、午年《うまどし》の男と言うように」
「はい」
「家を出てから今日で七日目になるということや、大切な宝を持って出たということも、聞かれたら答えてもよいけれど、あまり細かくは言わないように」
「はい、よろしうございます」
「それから、わたしの家の名前だの、幸内の名前だの、わたしの名前など、尋ねられても決して言わぬように」
「畏《かしこ》まりました」
お君は頭巾を取らない娘と、これだけの問答をして、一人だけ履物《はきもの》を脱ぎ揃えてお宮の上へあがりました。
ほどなく、お君は一枚の紙を手に持ってお宮の中から出て来ました。
「お嬢様、お御籤《みくじ》をいただいて参りました」
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