は頭の先から足のうらまで対《つい》の打扮《いでたち》でありましたけれども、これは姉妹でも友達でもなく、主従の関係にあるらしいことは、今のその挨拶の仕様でよくわかるのであります。
「ここが八幡様でございますね」
「ああ、ここが八幡様」
 こう言って二人は石段を登ります。この時はまだほかに参詣の人もありませんし、この近所を通る人も極めて稀《まれ》です。石段といっても五六段ぐらいしかありません。苦もなく二人は登って、二人は鳥居の中へ入って行きました。
 お宮の前へ来てから、はじめてそのうちの一人が頭巾を外《はず》しました。そうして現わした面《かお》を見ると眼のさめるほどに美しくありました。それは間《あい》の山《やま》のお君であります。お君は、こんな結構な晴着で頭髪《かみ》も見事に結っていました。
 お宮の前へ来てお君だけが頭巾を取りましたけれど、もう一人の娘は決して頭巾を取らないのであります。頭巾を取らないで八幡様のお宮の正面《まとも》を避けるようにして、水屋《みずや》の方へ漫歩《そぞろある》きをしているのに、お君はそれと違って、お宮の前へ出て恭《うやうや》しく拝礼しました。それからお賽銭《
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