すけ》にしては惜しいほどの人柄に見えました。
「どこへ行ったんだい、もう晩《おそ》いよ」
と米友は咎立《とがめだ》てをするような口ぶりであります。
「ナニ、部屋からの帰りなんだ」
と仲間体の男はなにげなき体《てい》で返事をして、お茶を飲んでしまうと懐中から叺《かます》を取り出して、炭火で火をつけて鉈豆《なたまめ》でスパスパとやり出しました。
「兄い、不寝番《ねずのばん》かい、御苦労だな」
と言いました。
「ははは、不寝番だよ、今夜はでえだらぼっち[#「でえだらぼっち」に傍点]が来るというから、それで寝られねえんだよ」
「ははあ、なるほど」
と言って仲間体の男は頷《うなず》きました。
「でえだらぼっち[#「でえだらぼっち」に傍点]がこの八幡様へ喧嘩をしかけに来るんだそうだ、それで八幡様のお庭を明るくしておけと神主様の言いつけだ、だからこうして不寝番をして、時々燈籠へ油を差して歩くんだ」
米友はワザワザ申しわけのように言っていると、
「なるほど、それは御苦労さまだ、油を差すのはいいが、油を売っちゃいけねえよ」
「ばかにしてやがら、油なんぞを売るものか」
「それでも今、コクリコクリとやって
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