「どっこいしょ、燈籠《とうろう》のあかりを見て来なくちゃならねえ」
と言ってそこを立ちました。立つ時に米友は億劫《おっくう》そうに烏帽子《えぼし》を冠《かぶ》って、その紐を横っちょの方で結んで、銅の油差を片手に、低い床几《しょうぎ》を片手に持って、草履をつっかけて外へ出ましたのです。
「なんだか知らねえが、今夜はこの八幡様へでえだらぼっち[#「でえだらぼっち」に傍点]が来るそうだから、それで燈火《あかり》を消しちゃあならねえのだ。でえだらぼっち[#「でえだらぼっち」に傍点]というのは、どんな奴だか、これも俺《おい》らは知らねえが、恐ろしくでかい[#「でかい」に傍点]奴だという話だ。そのでえだらぼっち[#「でえだらぼっち」に傍点]が、この八幡へ喧嘩をしかけに来るから、それで八幡様の前を明るくしておけという神主様の仰せだ。だから俺らはその仰せ通り今夜は不寝番《ねずのばん》で、お燈明へ油を差して歩くんだ」
油差と床几を手に持って外へ出た米友が、こんなことを言いました。そうして社の鳥居のところから始めて幾つもある木の燈籠や、石の燈籠をいちいち見て歩いて、消えそうなやつへは油を差して歩きました
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