た。それで自分もその御支配様が、馬に召して、だんだんに近いところへ打たせておいでになる姿を、お銀様と同じようにながめていますと、
「お幾つぐらいでしょうね」
 お銀様がこう言いました。
「左様でございますね」
 お君は、この時に御支配のお面とお姿とをよくよくとながめました。馬は二人の方へ向いて駈けて来ました。その間はかなりありましたけれど、こちらは木の蔭に隠れていましたから、向うではわかりません。
「お嬢様、御支配様は大へんお綺麗なお方でございますね」
「ええ」
とお銀様はこのとき振返って、お君の顔を見た眼つきに悲しい色が浮びます。
「帰りましょう、失礼だから」
 自分が先に立ってさっさと家の方へ行ってしまいます。お君はぜひなくそのあとをついて行きました。
 お居間へ帰るとお銀様は、わざとしたような笑顔を作って、
「お君や、お前の髪の毛が少し乱れている、それをわたしが直して上げましょう」
と言い出しました。
「お嬢様、それは恐れ多いことでございます」
と言ってお君が辞退をしました。
「いいから、ここへお坐り」
 強《し》いて鏡台の前へお君を坐らせて、お銀様はその後ろへ廻りました。
 お
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