き合せるようにして刀ばかりを見ていました。
五
その席はそれで済みました。主人も客も、始めあり終りある会合を満足して退散しました。
ただここで変なことが一つ起りました。それは幸内の行方であります。幸内はあれから御馳走になって神尾家を辞したのは夕方のことでありました。もちろんその帰る時も小腋《こわき》には、伯耆の安綱の箱を抱えて帰ったのでありましたが、それが有野村へは帰らずに、途中でどこへ行ったか姿が見えなくなってしまいました。
有野村の馬大尽の家では誰も、幸内がこの会合の席まで来たということを知ったものはありません。一日や二日帰らないからと言って、それはいつもあることだから誰も不思議とは思いませんでした。ただ一人、心配なのはお銀様ばかりです。今日で約束した三日の期限が切れるのに、幸内がまだ帰って来てくれないことをお銀様は心配していました。三日の期限が切れたから、直ぐにお父様に咎《とが》められるというわけではないけれど、あの刀は秘蔵の刀である故に、心配になります。
それでも、幸内を信じたお銀様は、やがて幸内が持って帰ることと信じていました。
けれどもその三
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