ちま》ちに多数の同意を得て筆と紙との用意が出来ました。おのおの筆を取って紙片に思う所を書いて捻って盆に載せ、二十余人の者が残らず投票をしてしまった後に開票のことになりました。
開票して見ると、その鑑定に大胆を極めたのもあり、小心翼々と疑問を存したのもあったが、いずれもそれを古刀と見ることには異議はありません、新刀と書いたものは一人もありませんでした。備中《びっちゅう》の青江《あおえ》であろうと書いたり、備前の成宗《なりむね》と極《きわ》めをつけたのもあり、大和物の上作と書いたのもあり、或いは、飛び離れて天座神息《あまくらしんそく》などと記したものもありました。その観《み》るところの区々であるだけ、それだけ捉まえどころが少ないものと見えましたが、さすがに則重と書いたものが六枚ありました。二枚三枚と適合したのはほかにもあったけれど、六枚揃うたのは則重だけでありました。
「どうもわからぬ」
開票してみて、いよいよ刀のえたいが不思議になってしまいました。則重もまた正宗《まさむね》門下の傑物だが、今ここに評判に上っているような宝物としては物足りないのであります。
「それでは、いよいよ則重かな
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