殿様はきっと御親切なお骨折りをして下さるに違いない」
「そんならお嬢様、わたしが行って、ともかくもお願い致してみましょうか」
「そうしておくれ」
「わたしなんぞが、お訪ねをしたからとて……」
 お君はお銀様の言葉というよりは、その圧力の烈しい命令に押しやられるようになって、大手の橋を渡って御門番の方へと歩みました。お君はお銀様からせがまれて御門番のところへ行き、
「御支配様にお目にかかりたいのでございますが」
「御支配様は太田筑前守様か駒井能登守様か」
「駒井能登守様に」
「何の用で」
 門番の足軽は六尺棒を突き立て、お君の姿をジロジロと見渡しておりました。
「あの、有野村の藤原の家から参りました、主人より殿様へのお使いでございます」
「左様か」
 足軽は会得《えとく》したような、会得しないような面をして、
「有野村の藤原家とあらば仔細《しさい》もあるまいけれど、御門鑑を御持参か」
「いいえ」
「御門鑑がなければ滅多に通すことはならない……」
と門番は権柄《けんぺい》を作りましたけれど、そのあとへ持って行って、
「のだが……」
という言葉を附け加えて、
「駒井能登守様は格別の思召《おぼ
前へ 次へ
全105ページ中102ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング