して二人につづいて上り込んで来たから、誰もそれを見て吹き出さないわけにはゆきませんでした。
「兄さん、お前の頭を見て皆さんが笑っていますよ」
 お絹は振返って米友の頭を見て、自分もおかしくなって口を袖で隠しました。
「でも家ん中で笠を被《かぶ》るわけにはいかねえ」
といって米友が不平な面をしましたから、お松はそれがまたおかしくって笑いました。
 能登守の一行は「なるほど、こいつだな」と思いました。昨日、鶴川での出来事を知っているだけによけいにおかしくなります。
「生《は》え揃《そろ》うまで頭巾《ずきん》でも被っていたらいいでしょう」
「鶴川の雲助の野郎が、こんなにしやがった、ほんとに憎らしい野郎共だ」
 米友は口の中でブツブツ言って、自分の頭をこんなにした雲助どもを呪《のろ》います。
 米友は、お絹とお松とがいる次の部屋へ陣取り、お絹お松の部屋と中庭を隔《へだ》てたところがすなわち駒井能登守の部屋であります。
 お絹は取敢えず御都合を伺った上で、能登守のところへお礼を申し上げに行ってきました。
 能登守は快《こころよ》くお絹と対談して女連の道中を慰めたりなどしました。駒井の許《もと》を
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