た。そんなはずはないというものもありました。能登守はそういう性質《たち》の人ではないと弁護をするものもありました。
甲州道中で、山を見たり雲助を見たりしていた眼で、二人の女を見たから、目を驚かせることがよけいに大きかったと見えて、暫らくはその噂で持切りでした。そうして結局は、その何者であるかを突留めなければならない義務があるように力瘤《ちからこぶ》を入れたものもありました。けれどもこの水々しい年増と美しい娘とが奥へ通ったあとで、一同は吹き出さなければならないことに出会《でっくわ》してしまいました。
それは二人につづいて米友がのこのこと入って来たからであります。笠を取るまではそんなに眼につかなかったけれども、笠を取って見ると米友の剃立《そりた》ての頭が、異彩を放っていることがよくわかるのであります。剃立てといえば、青々としてツルツルしたように考えられるけれど、米友のはよく切れない剃刀《かみそり》で削《けず》ったのだから、なかなかテラテラ光るというわけにはゆかないのです。ところどころに削り残された鉋屑《かんなくず》が残っているのであります。けれども当人は、やむを得ないような面《かお》を
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