人に世話を焼かせずに、自分から動き出す気にならなくちゃいけねえ」
こうしてがんりき[#「がんりき」に傍点]を助けに来た奴と、助け出されて行くがんりき[#「がんりき」に傍点]は窓から逃げて行きました。窓を上手に切って、身体の自由になるようにして、細引で縄梯子《なわばしご》がかけてあったのを上手に脱け出したから、旅に疲れた与力同心の面々も更に気がつきませんでした。
「兄貴、よく来てくれた」
「ほんとうに世話の焼けた野郎とっちゃあ[#「とっちゃあ」に傍点]」
「どうも済まねえ」
「ははあ、今度という今度はいくらか身に沁《し》みたと見えて弱い音《ね》を吹き出したな」
「どうにもこうにも身体が痛んでやりきれねえ、そりゃそうと、兄貴、俺がここへ捕まってることがどうしてわかったんだい」
「初狩《はつかり》まで行ったところが、通りかかる馬方の口から変なことを聞いたもんだから、それで、もしやと引返してみたんだ」
「そうか。兄貴の前だが、猿橋を裏から見せられたのは今度が初めてよ」
「鳥沢の粂の野郎がそうしたんだというじゃねえか。野郎あんまりふざけたことをすると思ったから、わざわざ引返して来て見ると、粂の
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