真暗なところへ抛《ほう》り込まれてしまいました。
「何だつまらねえ、猿橋を裏から見物させてもらうなんぞは、有難いくらいなものだが、こう身体が弱ってしまったんじゃどうにもやりきれねえ、今までのお調べは通り一遍だが、これから洗い立てられりゃ、どのみち、銀流しが剥《は》げるにきまってる、いつものがんりき[#「がんりき」に傍点]ならここらで逃げ出すんだが、身体の節々《ふしぶし》が痛んで歩けねえ」
と独言《ひとりごと》を言ってがんりき[#「がんりき」に傍点]はコロリと横になりました。
夜中になるとがんりき[#「がんりき」に傍点]の耳の傍で囁《ささや》く声がしたから、がんりき[#「がんりき」に傍点]はうとうとしていた眼を覚ました。
「百、しっかりしろ」
「兄貴か」
「野郎、また遣《や》り損《そこ》なったな、いいから俺と一緒に逃げろ」
「兄貴、動けねえ」
「意気地のねえ野郎だ、さあ俺の肩につかまれ」
「俺を荷物にしちゃあ兄貴、お前も動きがつくめえ、打捨《うっちゃ》っといてくれ」
「手前を打捨っておきゃあ、俺の首も危ねえんだ、早くしろ」
「それじゃせっかくだから、お言葉に甘えて御厄介になるべえ」
「
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