やがるだろう、これからゆっくりその話の筋を語って聞かせてやるから、落着いて聞いていねえ、それを聞いているうちにはなるほどと思うこともあるだろう、俺が酔興《すいきょう》であんな軽業をさせるんじゃねえと思う節《ふし》もあるだろう……おやおや、役人が大勢来やがったな、あ、百の野郎を引き上げたな。うむ、土地のやつらあ俺を憚《はば》かって手が着けられねえのを、木端《こっぱ》役人め、出しゃばりやがったな、面白《おもしれ》え、どうするか見ていてやれ、百の野郎がなんとぬかすか聞きものだ」
駒井能登守の一行はその晩、猿橋駅の新井というのへ泊りました。がんりき[#「がんりき」に傍点]の百は一間へ引据えて置いたが、息の絶えるほど弱っているのだから、縄をかけるまでもあるまいと、与力同心は油断をしてそのままで置きました。
「鳥沢の粂という者を呼んで、ともかくもこの男と突き合せて見給え」
能登守は命令の形式でなく、どうでもよいことのようにこう言って引込んでしまいました。
与力同心の連中は、ちょうど慈恵学校の生徒が解剖の屍体をあてがわれたような心持で、がんりき[#「がんりき」に傍点]の再調べに着手すると共に
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