]の身体を吊下げて、それを見ながら酒を飲んでいるのでありました。
「親分、どうか許して上げてください、あの人も悪いことがあるんでしょうけれど、あんなにまでなさらなくってもよろしうございます、どうか助けてやって下さい」
「いいや、いけねえ、あの野郎には、あれでもまだ身に沁《し》みたというところまでは行かねえんだ、もうちっと窮命《きゅうめい》さしてやる。お前もよく眼をあいて見ておきねえ、なんで下を向くんだ、よ、高さは僅か三十三|尋《ひろ》とちっとばかり、下はたんとも深くねえが、やっぱり三十と三尋、甲州|名代《なだい》の猿橋の真中にブラ下って桂川《かつらがわ》見物をさせてもらうなんぞは野郎も冥利《みょうり》だ。お前も可愛がったり可愛がられたりした野郎だ、よく見ておきねえ、なにもそんな処女《きむすめ》みたように恥かしがって下を向くことはねえじゃねえか」
鳥沢の粂の傍にいる女、それは女軽業の頭領のお角でありました。
「親分さん、どうか助けて上げてくださいよう、死んでしまいます、悪い人は悪い人でも、あれではあんまり酷うございますから、早く解いてやって下さいよう」
「いいや、いけねえ。お前もずいぶ
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