の小湊《こみなと》へ行く道にお仙転《せんころ》がしというのがあるが、ここには座頭転がしというのがある、座頭転がしとはなにか由緒《ゆいしょ》がありそうな名じゃ、どういうわけで、そんな名前がついたのだ」
本陣の主人が答えて、
「ただ山の中腹に開《あ》いてありまする路が、羊の腸《はらわた》みたようにうねっておりますから、煙草の火の借り合いができるほどのところへ行くにも廻り廻って行かねばなりません。或る時、二人の座頭が、この道を通りまする時、おたがいに言葉をかけ合って参りましたが、途中で後ろの者が『オーイ』と申します、前のものが『オーイ』と返事をします、近いところに聞えたものですから、真直ぐに行くと谷へ落ちて死んでしまいました。それで座頭転がしというのだそうでございます」
「この街道は道が嶮《けわ》しいばかりでなく、人気などもなかなか荒いようじゃ」
「人気はなかなか荒いそうでございます、どうも郡内者といって、旅の者が怖れておいでなさるそうでございますが、住んでいますれば、やっぱり同じ人間でございますから、そんなに荒っぽいとも存じません、頼むとあとへ引かないといったような片意地のところもござい
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