んざんに笑いながら、ようやく能登守一行の川渡りが済みました。しばらく遠慮をしていた両岸の旅客もようやく渡ることができました。
「いや、旅をするとさまざまの面白いものを見るわい、駒木野の関所で見た女、次に小仏を下りて見かけた足の早い男、今またあの奇妙な小男、さてこの次には何を見るか。それにしてもあの小男が槍を使うのは至極の精妙、見たところ、武家奉公をしている様子もなし、出し抜かれた、出し抜かれたと言って駈けて行くが、あの調子ではまた何かにぶつかって大事《おおごと》を惹《ひ》き起さねばよいが」
駒井能登守はこういって米友の身の上を心配しながら、やはり悠々として甲州入りの旅をつづけましたが、ほどなく鳥沢の宿へ着いてここの本陣で一休み。
三
鳥沢で休んでいるうちに、またさまざまの雑談がありました。この附近で香魚《あゆ》が捕れてその味が至極よろしいこと、また山葵《わさび》も取れること、矢坪坂《やつぼざか》の古戦場というのがあること、太鼓岩、蚕岩《かいこいわ》、白糸の滝、長滝などの名所があるということ、それから矢坪坂の座頭転《ざとうころ》がしの難所のことになって、
「房州
前へ
次へ
全123ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング