米友に槍で突かれた人足は一人。それは面を突き破られただけで、かなり重い傷には違いないけれど生命に別条はない。だからそれを償《つぐな》うために米友を片輪にしたら承知ができるだろう。しかし米友は跛足であってもう片輪になっている。この上に片輪にしてしまっては命を縮めることになるから、その代りに頭を坊主にして、それで許してやれという駒井能登守の裁判でした。
 能登守も笑いながら裁判しました。与力同心も笑いながら、
「それは御名案、どうじゃ川越しども、それで許してやれ、許してやれ、相手はこの通り正直者だから」
 与力同心がこう言うと、ハラハラしていた宿役人どももまた笑い出して、
「御支配様のお裁判だ、この男を坊主にして笑ってやれ、若い衆、それで我慢してくれ、我慢してくれ」
 八方からこう言われて、さすがの川越し人足も納まりかけました。
「あはははは、この野郎を坊主にしたらドンナ坊主が出来上るだ、見たところ餓鬼《がき》のようでもあるし、ばかに年寄じみたところもあるし、なんだかえたいのわからねえ野郎とっちゃあ[#「とっちゃあ」に傍点]、いいから坊主にして笑ってやれ」
「坊主、坊主」
 早くも番
前へ 次へ
全123ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング