なこと。
蟻《あり》のように上りかける人足を片端《かたはし》から突いて突き落す。寄手がいよいよ多ければ、いよいよ突き落す。裸体《はだか》の雲助が岩の上からバタバタと突き落されたところは、ちょうど千破剣《ちはや》の城をせめた北条勢が、楠《くすのき》のために切岸《きりぎし》の上から追い落されるような有様ですから、目をすまして見物していると、
「こいつら、俺らの懐中《ふところ》にまだ槍の穂が蔵《しま》ってあることを知らねえか、今こうして手前たちを突き落しているのはこの棒だけれど、いよいよという場合には穂をつけて、ほんとうに突き殺すからそう思え、今は怪我をしねえようにそっと突いていてやるんだ、穂をつけてから、米友がほんとうに荒《あば》れ出したら、いちいち突き殺して、この河原を裸虫で埋めるようなことになるからそう思え。何だい、そんな長い竿なんぞを持って来やがって、俺らを叩き落そうと言うんだな。よしよし、そんならほんとうに棒の天辺《てっぺん》へ刃物をくっつけるぞ、さあこれだ、これをちゃあんと棒の先へつけて槍に組み立てるように仕掛が出来てるんだ、これで突いたら命はねえんだからなそう思え、面《つら》
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