をしているうちに出し抜かれちゃったんだ、こうしちゃいられねえ」
「馬鹿野郎」
「何だい、何をしやがる」
「よく眼をあいて見やあがれ、川の向うもこっちも通行どめなんだ、みんなああして御遠慮をしているのがわからねえか」
「遠慮なんぞをしちゃあいられねえ、人から頼まれて乗物の目付《めつけ》をして来たんだ、それが先へ出ちまったんだ、俺《おい》らはそのつもりじゃなかったんだ、まだ出かけねえと言うから、それで安心して待ってたんだ、悪い奴の計略にひっかかったんだ」
「何を言ってやがるんだい、この馬鹿野郎、引込んでいやがれ」
 人足は拳《こぶし》を固めて米友を殴《なぐ》りつけてしまおうとすると、米友はその手の下を潜って飛び出し、
「お前たちの手は借りねえんだ、一人で越すからいいよ」
 尻を引絡《ひっから》げて川へ入り込もうとするから、人足どもがバラバラと駈けて来て米友を囲んでしまい、その手を持ってギュウギュウ引き立て、
「方図《ほうず》のねえ馬鹿野郎だ」
 ポカポカと二つ三つ食《くら》わせてしまいました。
「おやおや、打《ぶ》ったね」
「まだあんなことを言ってやがる、叩きのめして簀巻《すまき》にしてや
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