の連台がやっと担ぎ出されて、与力同心の面々の肩車がそれにつづこうとした時に、上野原の方から慌《あわただ》しくこの場へ飛んで来たのは誰あろう、宇治山田の米友でありました。
二
米友は例の通り跛足《びっこ》を引いて、杖《つえ》をついて、横っ飛びにこの河原まで駈けて来て、
「通してくれ、通してくれ、俺《おい》らが悪いんじゃねえ、まだ出かけねえと言うから、それで安心して待ってたんだ、ところが出し抜かれたんだ、あいつの口前にひっかかって、無駄話をしている間に出かけられちゃったんだ、ぐずぐずしていると俺らが申しわけのねえことになっちまうんだ、どうか通してくれ」
米友は眼の色を変えて川を渡ろうとしますから、宿役人や人足までが驚きました。米友のことですから、あんまり周囲の事情に見さかいがなく、笠と首根ッ子へ結《ゆわ》いつけた風呂敷包が上になったり下になったりするのをかまわず、無論、勤番支配であろうが、与力同心であろうが眼中になく、やみくもに川へ飛び込んで押渡ろうとするから、忽《たちま》ちドッコイと押えられてしまいました。
「やい、手前は何だ」
「通してくれ、通してくれ、無駄話
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