しん》とがきらめいて見えるのです。
「左様か、まだ御両所にはそのことをお聞き召されなんだか。しからばお話し申そう、このたびお役目を承って我々共の支配に来るのは、表二番町の駒井じゃ」
「ナニ駒井? 二番町の駒井能登《こまいのと》が来るのか、あの駒井が」
 神尾主膳は他人事《ひとごと》でないような思い入れで、いそがわしくまばたきをしました。
「いかにもその駒井能登守」
「左様か、駒井が来るのか」
 神尾は絶望して、取って投げるような返答ぶりでした。
「太田筑前殿は老巧者《ろうこうもの》だ、我等が上にいただいても敢《あえ》て不足はないが、駒井は何者だ、あれは我々よりズット年下、しかも知行高《ちぎょうだか》も格式も以前は我々に劣《おと》ること数等、若い時は眼中に置かなかったものじゃ。今となってあれに先《せん》を越されて剰《あまつさ》え、我々が支配として頭に頂かねばならぬとは情けない。ああ、そう聞いては酒がうまくない、世の中が面白くないわい」
「それは我々も同じこと。なるほど、駒井は学問は多少あるにはあるだろう、我々が道楽をして遊んでいた時分に、あいつは青い面《かお》をして書物と首っ引きをしてい
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