かみさんが悪者に苛められているところを、鳥沢の親分が助けて連れてかえったと? してその若いおかみさんというのは……また鳥沢の親分というのは何者」
与力同心が、土地の者の言葉尻を捉《とら》えてそれを訊《たず》ねてみました。
よく聞いてみると、峠道で悪い胡麻《ごま》の蠅《はえ》にかかって苦しめられていたという女は、駒木野の関を通してもらった女であって、それを助けた鳥沢の親分というのは、鳥沢の粂《くめ》という親分であることがわかりました。
鳥沢の粂というのは郡内《ぐんない》切っての親分であって、ずいぶん悪辣《あくらつ》なことをするし、また相応に義侠らしいこともする。この界隈《かいわい》では厄介者視しているものが半分と、畏服《いふく》しているものが半分という勢力であることもすぐにわかりました。
それを聞いただけで、駒井能登守の一行は例の通り上野原までやって来ました。上野原の宿へ着いた時も、先触《さきぶれ》がなかったから役員どもを驚かしました。
御支配のお着きということは本陣を大へんに騒がせたけれども、そのほかには至って無事で、一泊して翌日未明に出立。
上野原を出て少しばかり坂を下る
前へ
次へ
全123ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング