の一行は、時事を論じたり、風景を語ったりしながら、小仏峠の頂上まで登ってしまいました。
 頂上に中の茶屋があって、そこに休んで見ると赤飯《せきはん》がありました。その赤飯を大盤振舞《おおばんぶるまい》にして与力同心、仲間馬方に至るまで食いました。能登守もまたそれを抓《つま》んで喜んで食いました。なおお茶を飲む者もあれば水を飲む者もあります。頂上まで上って見ればこれからは下りであります。下り道は上り道よりも楽であります。上野原泊りの予定は、遊びながらでも着くことができるのであります。
 能登守は柄に似合わない健脚でした。いちばん早く参るだろうと思われた能登守がいちばん疲れないで歩いて来ましたから、
「御支配は健脚だ、いや身体の華奢《きゃしゃ》なものはそれだけ足の負担が軽いからそれで疲れないので、我々は頑健肥満に生れた罰でかえって山路に難渋する」
と言って、与力のなかで、いちばん肥満していちばんよく話をした男が、いちばん早く疲れて愚痴を言いました。
「おのおの方は、あまりよく口を利きなさるからそれで疲れるのだろう、すべて険岨《けんそ》を通る時や遠路《とおみち》をする時は、あまり口を利かない
前へ 次へ
全123ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング