の通り、強く罪人を扱うてかえって罪を大きくしてやることになり、或いは寛《ゆる》やかに扱い過ぎてかえって増長を来すようなこともある」
「寛厳よろしきを得たりということは治政の要術で、その術はまた治者の人格である、くだらぬ人格の者が、みだりに寛厳の術を弄《ろう》すればかえって人の軽侮を招く」
「大阪の与力大塩平八郎の事件などがそれじゃ、あれは跡部山城守殿《あとべやましろのかみどの》が大塩を見るの明《めい》がないから起ったことである。奉行が大きければ大塩は非常な用をする、奉行が小さくて大塩が大きかった故あんなことになったという説がある」
「大塩はとにかく近代での人物である、是非善悪は論ぜず、貧民のためにあれほどのことを為し得る奴はほかにはあるまいと思われる、あの乱もまた大塩自身の人物もあろうけれど、時のハズミというものもなきにあらず」
「国民の富豪に対する怨恨《うらみ》がようやくに熟していたから火蓋《ひぶた》が切られたのじゃ。それにつけても思うのは、このごろ江戸に起った貧窮組、浅ましいようでもあるし、おかしいようでもあるが、あれもまた時世を警《いまし》むる一つの徴候《しるし》」
駒井能登守
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