うにして、峠を下りついたところが駒飼《こまかい》の宿であります。
駒井能登守の一行がこの怪しの者を、駒飼の宿に近いところまで追い卸《おろ》した時分に、それとは逆に甲州街道を、鶴瀬《つるせ》から本陣の土屋清左衛門の許を立って、お関所を越えて駒飼の方へ行く一行がありました。これも槍を立て数人の供を引きつれて東に下るものと見えました。これは供揃《ともぞろ》いはさほどでなかったけれど、乗物を三つも並べたところが物々しい。その三つの乗物のうちの一つには人がいたけれど、あとの二つは空《から》でありました。その一つに乗っている人というのは神尾主膳でありました。してみれば、明いている二つの乗物の用向も大抵わかる。主膳は遊山がてらにお絹お松の一行を迎えに来たものと見てよろしい。実は笹子峠のこちらまで迎えるつもりであったのを、どうしてもこの峠を越し大庭《おおば》まで行かなければならなくなった事情が出来たものでありましょう。
「殿様」
「何だ」
「あれが天目山の道でござりまするな」
「左様」
「必ず天目山へ上ってみると仰せでございましたが、どうしてまた急にお模様替えなのでござりまする」
「昨夜、急用が出来
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