ちを取られてしまいました、申しわけのないことでございます」
「それはそうと親方、お前さんは何かこの道庵に内緒《ないしょ》の頼みがあると言いなすったから、それで俺《わし》はやって来たのだが、内密《ないしょ》の頼みというのはいったい何だね」
「そりゃ先生、ほんとうに内密なんでございますがね、本人も先生ならばというし、私共も先生をお見かけ申してお願いの筋があるんでございますがね」
「たいへん改まったね、この呑んだくれをまたいやに買い被ったね」
「全く先生をお見かけ申してお縋《すが》り申すんでございますから」
「気味が悪いな、そうお見かけ申して、見かけ倒しにされてしまってはたまらねえ、あんまりお縋り申されて引き倒されてもやりきれねえが、男と見込んで頼まれりゃ、おれも道庵だ、ずいぶん頼まれてみねえ限りもねえのさ」
「実は先生、人を一人預かっていただきたいんでございますがね。ただ預かっていただくんならどこでもよろしうございますが、暫らく隠して置いていただきたいんでございます。先生ならば預ける方も安心、預けられる方も安心なんでございますから」
「俺に人を隠匿《かくま》えというのか。そりゃ大方|謀叛人
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