でございますから、ちょうど婚礼最中の当家は上を下への大騒ぎで、村の大寄合いが始まってその相談の上、年寄たちが土産物を持って御機嫌伺いに行って、お願い下げにして来るということになりましたが、何の事に直ぐ追い帰されてしまって取附く島がございません。私共若い者たちは血の気が多うございますから、そんな没分暁《わからずや》の非義非道な役人は夜討ちをかけてやっつけてしまえと、勢揃《せいぞろ》いまでしてみましたが、年寄たちがまあまあと留めるものですから我慢をしていました、そうすると、いいあんばいにそこに立会ってきまりをつけてくれたのが一人のお武士《さむらい》でございます。そのお武士は御病身と見えまして、その前からこの温泉で湯治をなすっていたのでございます、身体も悪いようでございましたが眼が潰《つぶ》れておいでになりました」
「ナニ、目が潰れていた?」
前口上はどうでもよろしいが、これだけは聞き洩らすまじきことです。この男の口から語られた机竜之助の挙動はこうでありました――
擬《まが》い者《もの》の神尾主膳であった折助の権六を一槍《いっそう》の下《もと》に床柱へ縫いつけた時、主膳の同僚木村は怒り心
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