不思議はございますまい、古金の大判から甲州丸形の松木の印金《いんきん》、古金の一両判、山下の一両金、露《ろ》一両、古金二分、延金《のべがね》、慶長金、十匁、三朱、太鼓判《たいこばん》、竹流《たけなが》しなんといって、甲州金の見本が一通り当家の土蔵には納めてあるのでございます。それはなにも隠して置くんでもなんでもなく、お役人が後学のために見ておきたいとか、学者たちが参考のために調べたいとかいう時には、いつでも主人が出して見せているのでございます。ところが今度来たお役人は、大枚三千両とか五千両とかの金銀を隠して置くに相違あるまい、それを出さなければ重罪に行うと言うのでございましょう、飛んでもないことでございます、当家の主人がそんな金銀を隠して置くような人でないことは、私共はじめ村の者がみんな保証を致しまする。そんなことはございませんと言いわけをしますと、どうでございましょう、若主人を引きつれてあの宿屋へ行って拷問《ごうもん》にかけているのでございます。さあ三千両の金を出せば内済《ないさい》にしてやる、それを出さなければ甲府へ連れて行って磔刑《はりつけ》に行うと、こう言って夜通し責めているの
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