預けてお上へ差上げるようにしておりますくらいですから、当家でそれをクスネて置くなんていうことができるものではございません。当家にありまする金銀と申しますのは御先祖から伝わる由緒《ゆいしょ》ある古金銀で、山から出るのとは別なんでございます。その当家の御先祖というのは……当家の御先祖は権現様《ごんげんさま》よりずっと古いのでございます。このあたりから金を盛んに掘り出しましたのは武田信玄公の時代でございます。もっともその前に掘り出したものも少しはございましょうけれど、信玄公の時が一番盛んで甲州金というのはその時から名に出たものでございます。権現様の世になってからもずいぶん掘ったものでございますが、その金を掘る人足はみんなこの望月様におことわりを言わないと土地に入れなかったもので、信玄公時代からの古い書付に、金掘りの頭を申付け候間、何方《いずかた》より金掘り罷《まか》り越し候とも当家へ申しことわり掘り申すべく、この旨《むね》をそむく者あるにおいてはクセ事[#「クセ事」に傍点]なるべきものなりとあるんでございます。そのくらいの旧家でございますから、代々積み貯えた金銀がちっとやそっと有ったところで
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