で曲者あり出合えという声を聞いたから、そこで五人が一時に立ちどまりました。
「御同役、何かこの邸内で変事がござったようじゃ」
「左様、何か物騒がしい」
 市中取締りが、この時分には町奉行の手だけでおさまりのつかなかったことは前に言う通りであったから、幕府は譜代の大名と五千石以上の旗本を択《えら》んで、それぞれ持場持場を定めて八百八街《はっぴゃくやまち》を巡邏させたのでありました。そうして、もっとも危険区域とされた三田の藩州附近、伊皿子《いさらご》、二本榎《にほんえのき》、猿町、白金辺を持場として割当てられたのが荘内藩であります。
 この荘内の巡邏隊は今、徳島藩邸内の騒ぎを聞いて、足を留めて中の様子を窺《うかが》っていると、脇門《わきもん》がギーッとあいて、そこから形を現わしたのが、以前火の見櫓で絵図面を取っていた覆面のふたり。
「さてこそ!」
 巡邏隊は短槍と小銃とを二人につきつける。
「これは巡邏隊の諸君か、お役目御苦労」
 中から出て来たふたりは、かえって心安げに言葉をかけたが、こっちは油断をしないで、
「名乗らっしゃい、我々は荘内藩の巡邏隊でござる」
「拙者は上《かみ》の山《やま
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